JAFPA NEWS(会報)

JAFPA NEWSVol59

平成21年3月14日、長野県飯田市で開催されたシンポジウムj
平成21年3月14日、長野県飯田市で開催されたシンポジウムj

高山植物を守ろう

150名が参加、飯田市でシンポジウム

去る3月14日(土)、長野県飯田市において長野県の伊那谷自然友の会との共同主催により「高山植物保護シンポジウム」を開催いたしました。

この事業は、当協会の設立20周年記念事業の一環として位置づけ開催したものでありますが、伊那谷自然友の会のほか、長野県下伊那地方事務所、飯田市美術博物館も共催としてご協力いただき、実施することができました。

地元の皆様のこのようなご協力の中で、当日は地元の長野は勿論、山梨、静岡、東京それに遠くは北海道からの参加者もあり、約150名の皆様が会場である長野県下伊那地方事務所講堂を埋め尽くし、改めて高山植物を取り巻く山岳自然環境への関心の高さを伺い知ることができました。

高山植物は、かつて地球が氷河期であった時代に、平地で生育していましたが、間氷期と共に北へ、あるいは高山へと自分達に適した生育環境に移動し、今日まで生き続けていますので、地球の歴史を学ぶうえで、学術的に貴重なばかりではなく、可憐で美しく厳しい環境で生育する力強く逞しい姿が私たちの心を捉えて放しません。

明治の中ごろに芽生えた近代登山の旗手たちは、登山の疲れを優しく癒してくれる花たちの価値を正しく評価して、高山植物保護を早くから訴えていました。しかし、今日まで人間の我が侭や欲望のために絶滅してしまったたくさんの種があります。

平成元年、貴重な高山植物を守るために多くの有志が集まり「日本高山植物保護協会」が設立されて以来、当会はその目的を達成するために全国を舞台に活発な活動を展開してまいりました。今回の伊那谷でのシンポジウムは、南アルプスと中央アルプスに挟まれた山の都「飯田市」で、目的を同じくする多くの団体や関係者の皆様のご協力をいただいて、実現することができたものです。

ニホンジカに対する一刻も早い対策が必要

シンポジウムは、「伊那谷自然友の会」の北沢あさ子さんの司会により、白徐・j朗「日本高山植物保護協会」会長の主催者挨拶の後、来賓の伊澤宏爾飯田市教育長が、環境モデル都市の指定をうけた飯田市は、恵まれた自然環境を子供たちにどう伝えるかを考え、21年度には環境モデルの指定校を作り小中学校で環境問題に取り組み、ふるさとを愛し、大きく成長し、日本だけでなく世界について、環境問題などについても深く理解のできる人づくりをしてゆくことや、ニホンジカが横行する伊那谷の最近の自然の様子を話されました。

基調講演は主催者挨拶に引き続いて、世界的な山岳写真家で高山植物に関する著書も数多く著している、白徐・j朗会長が高山植物保護協会の歴史や活動状況、今回伊那谷で開催できたシンポジウムの意義等を話した後、スライドを上映しながら、約60種類の代表的な高山植物の分布、特徴、美しさや逞しさをわかり易く伝え、その環境を大勢の人の力で守ってゆかなければならないことを熱く語りました。

また、近年になってニホンジカの食害による高山植物の消滅を非常に危惧し、今までは人間の盗掘に厳しい監視が必要であったが、新たにニホンジカに対して、一刻も早い対策が必要であると強く主張されました。

深刻な実態と保護活動の状況を報告

続いて、以下の方々を迎え、「高山植物・希少野生植物の現状と保護」と題してパネルディスカッションが開催されました。 ・パネリスト 片桐勝彦氏 (日本高山植物保護協会伊那谷支部長) 小林正明氏 (伊那谷自然友の会会長) 平瀬長安氏 (大鹿村観光協会会長、三伏峠小屋経営者) 宮澤泰子氏 (環境省南アルプス自然保護官) ・コメンテーター 白徐・@史朗氏 ・コーディネーター 北城節雄氏(伊那谷自然友の会) 片

桐勝彦氏は、「中央アルプスの自然と高山植物の現状と保護」というテーマで中央アルプスの自然を紹介し、千畳敷カールでの保護活動として、パトロール、ごみ持ち帰りの呼びかけ、中部森林管理局による植生復元研修などの保護活動を報告し、非常にたくさんの観光客が訪れるので、自然保護に対する関心の高さや考え方に温度差があり保護啓発活動が難しく、時にはトラブルになることもあるが、今後も根気良く説得し自然保護に対する関心を高め、地道に活動を続けて行きたい。また保護活動のメンバーが高齢化し、活動の限界が見え始めているので、若者達にも共に活動してほしい。と協力を訴えました。

小林正明氏は、テーマに「南アルプスのシカ食害問題と希少植物」を掲げ「保護柵を作った後の景観」「木曾山南面の食害」「失われたと思われる種類」その他針葉樹林床、里山など環境別の食害状況、忌避植物、ニョホウチドリやコアツモリの状況など、近年のニホンジカによる希少植物の食害についての緻密な調査結果を報告され、原因分析、保護対策が示されました。

平瀬長安氏は、「三伏峠お花畑の現状と保護」について、大鹿村のニホンジカの生息推移や、三伏峠の高茎草原がニホンジカの食採によりゴルフ場のようになってしまった状況を報告され、行政と民間ボランティア団体によって防鹿柵の設置や土砂流失防止のヤシ繊維マット敷設等の活動により、ゆっくりではあるが植生の回復が見られている。これらの対策を引き続き進めることにより人と動物たちが共生できる山岳自然環境が生まれ、自然を楽しむ登山の魅力がより一層増してくることを、最前線の現場の声として届けられました。

宮澤泰子氏は、昨年10月1日、長い間の地元の念願が叶い、40年ぶりに南アルプスの自然保護官として着任されました。環境省の立場から南アルプス国立公園の保護や利用の特徴や高山植物保護のための法的裏付け、それにキタダケソウの自生地での保護活動をわかりやすく説明され、さらに着任して間もないにもかかわらず、いち早く北岳に登山し最新情報を収集して、ニホンジカ問題への環境省の取組みを紹介されました。

山岳部や山岳会の衰退マナー低下にも繋がっている

パネラー発表の後、北城コーディネーターの進行でパネラーの皆さん、白徐・Rメンテーター、それに会場の参加者を交えて総合討論が活発に行なわれ、以下のような問題点や課題が提起されました。 1.中央アルプスのように登山者、観光客が入り混じる場所では、自然保護に対する考え方がまちまちで、理解度にも大きな温度差があるので、指導啓発活動が難しい。 2.植物を保護するのに、情報を公開して保護の重要性を理解してもらい保護するか、あるいは生育地を秘密にして保護の徹底を図るか?(ササユリを例に) 3.登山者のモラルの向上、登山ばかりでなく日常の生活の中で自然の価値の認識をどのように教育してゆくのか・・・結局は環境教育をどのように進めるかによって、日本国民の環境に対するスタンスが決定される。 4.南アルプスにリニアのトンネルができて開通し、運転されることになれば自然環境への影響が心配される。 5.近年の登山の動向は、山岳部や山岳会が衰退して、未組織の登山者や、ツアー登山が多くなってきており、事前教育が十分なされていないために、自然に対する認識不足や登山の安全が確保されないための遭難、高山植物の違法採取、ごみの不法投棄がなされるなど、マナーの低下にも繋がっている。

大事なことは山の様子を正しく知ること

このような活発な討論が繰り返され、北城コーディネーターは、「大事なことは、山の様子を正しく知る。高山植物を正しく知ることが愛することにつながる。高山植物の危機的状況を守ってゆくには、ルールをつくり、パトロールをする。美しい日本の自然環境が私たちの生活にどのように繋がっているのか、人の心を、住民意識をどうやって高めるかを考え、それを根気良く繰り返すことである。

今、南アルプスを世界遺産にするために努力している。観光目的にするのではなく、自然をきちんと守ることである。一本の草の命を守れなければ、高山植物全体を守ることは到底できない。」と締めくくりました。

このようなことから、私たちの暮らしている宇宙船地球号の未来は、この舟の乗組員である私達自身の手に握られています。ですからこの素晴らしい自然を傷つけることなく未来に引き継いでゆくことが、今を生きる私たちの努めなのです。

最後に高橋正夫事務局長から本日の御礼と、具体的な活動の一歩を踏み出すために「伊那谷自然友の会」「日本高山植物保護協会」の入会勧誘がなされ、飯田市での高山植物保護シンポジウムを終えました。


特別寄稿 創立20周年に寄せて

望月幸明

日本高山植物保護協会の創立二十周年を心からお祝い申し上げます。関係者の方々の御苦労に深甚なる御礼を申し述べ、年々事業の拡大と全国的な組織展開が進められ、会員も増加して、素晴らしい集団となられましたことに敬意と祝意を表します。

この協会の発足、設立の機縁を造ったものの一人といたしまして、別して感慨深いものがあります。

「芋の露連山影を正しうす。」

言うまでもなく、山梨県人ならずともよく知られた飯田蛇笏の名句であります。しかもこの句を誦して、思い至ることはまことに多彩であります。山梨の風土、歴史、景観、心情、時には施政についてなど、その広がりは圧倒的であります。

まず、山梨の連山の凛然たる姿勢の正しさ素晴らしい景観が見事であります。

その山々の方位から自分の置かれている位相が、はっきりと確認されます。

その眺望の中から歴史と風土像が浮かびあがって参ります。

更には災害から民生を護る為には川を治め、山を治める「治山治水」が、甲斐の国の古来からの変わらざる伝統であったことも偲ばれるのであります。

しかも、この連山には四つの国立、国定公園が設定されております。そしてこの連山には十六万町歩余に及ぶ恩賜県有財産が展開し、他県に殆んど例のない林務部、現在は森林環境部と言う行政機構と、各地の恩賜林保護組合が共同して管理運営に当り、山を治め護ってきた長い伝統があります。言うなれば、山梨ならではの独特な有り様であります。

祖先伝来の山への愛情が培われ、一木一草にまでその親近感が醸成されて参った所以であると考えるものであります。

ところが、戦後の経済復興、発展の余波というか、高度経済成長に伴って、特に高山植物に対しての人為的被害、即ち不法採取、盗掘、盗採等が散見される様になりました。皮肉なことに治山等の為の林道開発、整備が進められるにつれて、県内各地にその被害が拡大し社会問題、或いは地域問題になって参ったのであります。

日本人には狂言「花盗人」の如く、古来花を少々自分の観賞用に頂くことは、さして罪悪ではない、まあ許されるだろうという思い込みがあったと思います。高山植物でも少しなれば許されるという風流めいた思い入れであります。

しかし高山植物の生長はしかく容易なものではなく、厳しい自然環境の中で育つことは大変なことであるのは言うまでもないことであります。

山を愛し、その植生に思いを至す人々には我慢ならないことであります。その土地に住み、先祖伝来この山で生きてきた人々には、堪え難い思いであります。

何とかならないか、その為の制度構築論が抬頭して参りました。

一九七〇年代にともあれ山岳監視員制度が組み立てられ、山を愛するボランティアの参加を得て、或程度の成果を収めることが出来ましたが、歯がゆい思いが逐次募る一方でありました。

そこで、昭和五八年に近藤信行氏、五九年白.史朗氏、六〇年田中澄江さんらと、逐次対談を重ねましたが、山岳資源、高山植物の貴重さと保存保護の必要性を説かれました。やがて、「高山植物を護る規則」の必要性の提言を頂きました。

ホウオウシャジン

国の施策を待つ迄もなく、山梨県だけでもスタートすべきだと考え、条例制定を約束いたしました。早速関係方面への折衝や資料蒐集また詰の議論の会が続きました。 程なく条例案をまとめ、昭和六〇年九月の県議会に「山梨県高山植物の保護に関する条例」案を提案し、全員の賛成で可決して頂き、翌昭和六一年四月施行いたしました。

その施行状況と併行して、有難いことに多くの熱心な同調者の参加があって、平成元年六月、高山植物保護協会が設立されたところでありました。佐竹義輔会長以下多くの熱心な方々の集団、条例で一つの制度を作ってはみたが、それにがっちりと魂を吹きこんで頂いたという思いで、感激でいっぱいでありました。

タカネビランジ

協会が設立されましてから、満二十年、創立時の熱意は更に深められ、組織、会員、事業、一般への啓蒙が拡大し大きく生長して参りましたことは皆様方御存知の通りであります。それに高山植物の保護という一点から、やがて環境問題へ、地球環境問題へと視界を広げられていることは素晴らしいこと、改めて敬意を捧げるものであります。

尚、自分勝手の忘じ難い思い出を一つ、書き加えさせて頂きます。

奇しくも協会創立の年の夏、私は鳳凰三山を縦走いたしました。印象が鮮明で楽しい思い出でありました。実はその以前、年に一つ宛三千米級の山に登りたいと心掛け、甲斐駒、北岳、八ヶ岳と登山しておりましたが、蛇笏のいう「連山影を正しうす」の連山の一群を縦走したいと考えたからであります。薬師岳、観音岳、地蔵岳の三山であります。富士山や秩父山塊、八ヶ岳などの遠望も素晴らしいが、早川渓谷を越えると白根三山の北岳、間の岳、農鳥岳は真向いであります。それを半日眺めては歩き、眺めては歩きしたものであります。

ゴゼンタチバナ

「座シテハ看ル雲ノ起ル時」という漢詩の一節を思い出す状景。山を眺めておりますと逆に向こうから眺められている感すらいたしました。「山を見ている」「山もこちらを見ている」という感じでありました。そして足下や周辺には、高山植物群が見事でありました。「ホウオウシャジン」「タカネビランジ」「キバナアツモリソウ」「キバナシャクナゲ」そして小さな気品に充ちた「ゴゼンタチバナ」と言った見事な花々を眼にいたしました。まさに眼福でありました。

非常に品のある、風雪に耐えて凛とした姿で精いっぱい咲いていたのであります。生命の限り咲いている。花すらもこちらを眺めている。「花も見ている」そういう感を深めました。

人と人との交流の外に、自然界との交流もある。山梨の姿勢正しい連山は、多くの人々にとっての聖地であり、自然との心の交流をすることのできる掛け替えのない拠点であると改めて感銘したものでありました。

いつまでも残しておきたい、大事に保護しておきたいという思いを深めた鳳凰三山の縦走でありました。

当時のことを回想しながら、関係者の皆様に改めて御礼を申し上げ、協会の今後更なる発展を祈念いたします。

 


高山植物一口メモ[チングルマ(バラ科)]

チングルマ(バラ科)
チングルマ(バラ科)

本州中部以北と北海道の高山帯に分布。

奇数羽状に裂けた葉を密につける高さ10センチほどの低木のかわいらしい高山植物です。

花後、花柱が伸び、放射状に広がり、おもちゃの風車に見えることから、稚児車、そしてチングルマに転化したと言われているようです。

まだ、梅雨も明けない6月下旬、秋田駒ケ岳で見渡す限りのチングルマの白い花の群落を見る事ができました。最高のタイミングだったのでしょう。 こんなに、かわいらしい花の群落を見たのは初めてで幸福な気分に浸ることができました。秋の多数のそう果が風になびく風景も美しいものです。(田中洋子)


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