JAFPA NEWS(会報)

JAFPA NEWSVol62

保護柵内と刈りとられたような周辺 櫛形山(栗山)広瀬和弘氏提供
保護柵内と刈りとられたような周辺 櫛形山(栗山)広瀬和弘氏提供

設立後20年が経過して

伊那谷支部長 片桐 勝彦

日本高山植物保護協会の設立総会は、平成元年6月、山梨県高根町(現 北杜市)の(財)キープ協会ネーチャーセンターにおいて開催されました。その後、平成4年11月には関西支部、平成8年5月に静岡支部、平成12年7月には伊那谷支部が設立され、平成16年4月には念願の特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を受け、昨年6月に20周年となりました。
この間、指導者研修会や観察山行、高山植物保護シンポジュウムや講演会、ゴミ袋や水解性ティッシュペーパーを配布しての高山植物保護キャンペーンなどを各地で実施するとともに、酸性雨調査や写真教室・絵画教室なども開催して、国民の皆様に高山植物保護についての理解と協力を求めて参りました。
また、各支部はそれぞれの特徴を生かして観察山行や美化活動、植生復元活動や高山植物等保全対策検討会・指導員研修会、環境保全パトロール・植生復元マット敷設やゴミ持ち帰りキャンペーンなどを精力的に実施しています。
しかしながら、残念なことに近年会員は漸減しております。設立後20年が経過して退会される方が増えていることや、今日の経済状況などからやむを得ないものとは思いますが、高山植物保護を取りまく環境は、ニホンジカによる食害等によって一層厳しい状況にあり、各地においてより活発な保護活動を展開していくことが求められています。
このためには支部を増やすことが必要だと思います。支部を増やすことが出来れば高山植物保護の理解者を拡大できると思います。支部には大きな活動を求めることはできないにしても、それぞれの地域において支部が地道な啓発活動に取り組むことにより、高山植物や自然保護への理解を求めることは大きな意義があると思いますし、会員の拡大も期待できると思います。
本部情報紙は保護啓発活動の周知、会員の交流の場としても大切な役割を担っており、会員の意見発表や情報提供等積極的に活用すべきであり、一層の充実を期待いたします。


特別寄稿 今、南アルプス白根三山周辺で起こっていることニホンジカの影響

山梨県森林総合研究所 長池 卓男

 本誌でも連載で報告されているように、ニホンジカの高山帯への影響が盛んに報告されるようになってきています。北岳をはじめとする南アルプス白根三山でも例外ではありません。キタダケソウは、ご存じのように世界中で北岳にしか生育しない種ですが、それへの影響も懸念される状況にあります。
本稿では、山梨県において行われている調査の結果や、今後の対策などについて紹介します。

山梨県による実態調査の状況

 山梨県みどり自然課では、南アルプス白根三山を中心とした実態調査を2008年から開始しました。これまでに影響が大きく及んでいると寄せられた情報から、草すべり周辺を中心に、大樺沢、北岳肩の小屋周辺、旧北岳山荘周辺、農鳥小屋水場周辺で調査を行っています。調査方法は、1×2mの調査区を設置し、その中に生育する植物とその摂食の状況を調べています。その結果、植生に及ぼすニホンジカによると思われる影響が浮き彫りになってきました。摂食が多く見られたのは標高2450.2750mで、草すべり上部や右俣上部、農鳥小屋水場付近では、踏み跡や採食によって植生が消失している場所もみられるようになっています。影響の状況は、中部森林管理局(2008)によって長野県側で調査された、「ダケカンバ林、沢地形、緩傾斜地が連続しているような地域において、シカの出現する可能性が高い」という結果と同様の傾向がみられています。特に草すべり周辺では、6月下旬にはニホンジカによると思われる「けもの道」が鮮明にみられ、頻繁に行き来している様子がうかがわれます。また、ニホンジカと思われる痕跡の最高標高は肩の小屋テント場付近の3,000mでした。森林(樹木)への影響は、広河原と大門沢からそれぞれの登山道での森林限界まで、および農鳥小屋水場周辺で調査を行っています。調査方法は、1 0×40mの調査区を設定し、その中に生育する樹木の中で剥皮されている割合を求めました。その結果、亜高山帯針葉樹林やダケカンバ林では樹木への影響は比較的軽微で、落葉広葉樹林(特に大門沢)でその影響が大きいことが示されました。
これまで行われてきた中部森林管理局や環境省の調査、そして山梨県の調査の結果、白根三山ではニホンジカの影響が無視できない状況にあることが分かってきました。そこで、環境省では、2009年度に南アルプス国立公園高山植物等保全対策検討会を設置し、「南アルプス国立公園及び隣接する地域における高山植物等保全対策基本計画」を策定しました。2010年度からは環境省や山梨県による調査研究やそれに基づく対策も本格的に開始することになっています。その内容としては、ニホンジカの捕獲、技術的に困難な高山帯でのニホンジカ捕獲技術開発、効率的な捕獲のためのニホンジカの行動圏把握、植生保護柵による緊急対策、増殖技術の開発など、が考えられています。これらの対策が行われることによる効果をモニターすると言うことが今後必要になってきます。

捕獲、防除、生息地管理の取り組みが必要

ところで、高山帯にまで出現しているニホンジカが1年中高山帯にいるとは考えられません。冬には積雪や低温を避けて低山に下りていることでしょう。そのように、低山に下りたところを捕獲すれば、高山での困難な捕獲よりも効率的であると考えられています。しかしながら、夏に高山帯にいる個体が冬にどこにいるかというデータは乏しいのが現状です。信州大学の泉山茂之先生の研究では、秋に北沢峠にいた個体は、白州の日向山で冬を越し、夏には塩見岳へ、と広範囲に移動していることが明らかになっています。しかし、高山帯にいるすべてのシカがこのような行動をしているわけではなさそうなことも分かってきています。このようなデータを積み重ねることで今後も効率的な捕獲策を検討していきます。
野生動物の管理には、「増えてしまった個体数を減らす(捕獲)」「被害のでないように対策する(防除)」に加えて、「これ以上増やさないようにする(生息地管理)」の3者での取り組みが必要です。なぜならば、いくら捕獲することによって個体数を減らしても、個体数が増える要因が取り除かれないならば、効果的に個体数を減らすことは困難だからです。したがって、捕獲と同時にニホンジカをいかに増やさないかをも考える必要があり、それには、関係する多くの皆さんで総合的に取り組む必要があります。子ども達にどのような南アルプスを受け渡すのかを考える上で、地域全体として考えなければならないとても重要なことです。


特別寄稿 南アルプス食害対策協議会の取り組み

伊那市産業振興部農林振興課 下島 聡

協議会設立の経緯

 南アルプス周辺区域におけるニホンジカの生息数は増加する一方であり、長野県の特定鳥獣保護管理計画によると南アルプス周辺域には30300頭のニホンジカが生息していると推定されています。  生息密度の増加による食圧は山麓の農地から、高山帯まで広範囲にわたっています。高山帯においては貴重な高山植物に対する食害、森林帯では自然植生への食圧による林地崩壊の危険性が増加し、中山間地域では農作物への被害による耕作者の生産意欲の減退を招き、荒廃農地、遊休農地の増加原因の一部となっています。
各地域においても自衛のための防鹿柵、電牧柵の設置や個体数調整の対策を行っていますが動物には県、市町村の境界が無く、安全で餌の豊富な地域へと移動しながら生息数を増している状況であり、広域的な対策が望まれていました。
このような状況の中で、南アルプスの貴重な高山植物、丹精込めて作った農作物、林産物をニホンジカの食害から守っていくため、関係機関(南信森林管理署、長野県、信州大学農学部、伊那市、飯田市、富士見町、大鹿村)の英知を結集し、相互に連携協力するため、平成19年9月に設立したのが南アルプス食害対策協議会です。
南アルプスの仙丈ケ岳は、その容姿から南アルプスの女王として知られ、特に馬の背周辺ではクロユリやシナノキンバイ、ミヤマキンポウゲを始めとする、高山植物のお花畑があちこちで見られていました。しかしここ数年、高山帯にまで進出したニホンジカによる食圧により、その多くが衰退し以前の姿は見られなくなっています。
現在は、ニホンジカの好まないマルバダケブキ、バイケイソウなどにより、単一の植生となり、既に自然に植生が回復する状況ではありませんでした。
そこで、平成20年度より、協議会では、「できることから始めよう!南アルプスの貴重な高山植物保護」をスローガンに各種対策を行っています。

仙丈ヶ岳馬の背への防塵柵の設置

平成20年度には緊急に保護対策が必要な、仙丈ケ岳の馬の背に防鹿柵を設置することにしました。
この作業は8月7~9日の3日間かけて行い、ボランティアを募り60名を越える皆さんや環境省の協力により実施しました。
柵の規格は、支柱地上高2m(コンポーズパイプ支柱)とステンレス線入りの網目15㎝のネットでの構成となっています。また、ニホンジカの他雷鳥等の鳥が誤ってネットにかからないよう視認性を高めるためオレンジのネットを採用しました。防鹿柵は登山道に沿うように2.5mピッチに支柱を立て、3箇所、総延長L=330m A=0.18ha設置しました。設置箇所は最大積雪が5m近くにもなる雪崩地帯のため、一箇所は全部取り外す型とし、二箇所目は支柱を補強する型、三箇所目は支柱をそのままにネットのみ下げる型での設置としました。
設置から約一ヵ月後の9月4日に現地を確認したところ、柵の中でミヤマセンキュウの花が咲いており、柵の効果が確認され次年度に向けての期待もふくらみました。
秋10月23日には、植生の回復状況を確認しながら、ネットの撤去作業なども行いました。
平成21年度は、馬の背に防鹿柵を2箇所L=280m A=0.16ha追加し、夏に植生の確認を行ったところ、タカネスイバ、シラネセンキュウ、ミヤマキンポウゲ、キヤマシシウド等が柵の中で確認され、植生が完全に消滅していないことに安心したところです。しかし相変わらず柵の無いところでは、食圧により単一の植生に変わってきており、対策の難しさを実感しているところです。

ニホンジカの行動範囲の調査等の実施

防鹿柵の設置と併せて、信大農学部に委託し各種調査も実施しています。ニホンジカに発信機を取り付けての行動調査、食害が侵食土砂量と植生の回復に与える影響調査、防鹿柵の内と外の植生調査です。特に発信機による行動調査では、狩猟期になるとニホンジカは禁猟区へ移動するなど、その驚くべき行動パターンも報告されて今後の対策の参考となる資料となっています。平成21年度からは、林野庁の補助をいただく中で調査エリアを拡大し、実施しています。これらの調査は経年で行うことが重要となるため、今後数年にわたり調査を実施する計画です。

一般市民への啓発活動

南アルプスの高山植物が置かれている状況は前述のとおりですが、これらのことを知っている市民はごく限られた方ではないでしょうか。そこで協議会では、広く状況を知ってもらうための啓発活動も行っています。平成20年7月26日には「南アルプス食害対策シンポジウム」の開催、翌年3月17日には、協議会の活動報告会を行いました。また、協議会の21年度総会の席では、隣接静岡県の担当職員を招いての講演会なども行なって来ました。

環境省との連携

協議会の取り組みと併せて、環境省も平成20年に馬の背に防鹿柵を設置しています。こちらは常設型で5箇所L=308m設置しました。この取り組みにも協議会として協力し設置、メンテナンスなどの作業に参加しています。

今後の展開

 平成22年度では、新たに南アルプスの兎岳に防鹿柵を設置する計画も進んでいます。しかし、今まで記述してきた防鹿柵の設置により守ることができる高山植物は、広大な南アルプスエリアの中では、猫の額にも満たないごく限られたエリアです。
降雪量も減少傾向で、ニホンジカが自然淘汰によりその数を減らすことは難しいと感じます。今後は調査内容に基づき、鹿の個体数調整の方法の確立が必要ではないでしょうか。そのためには減少する猟友会員の確保など解決しなければならない問題も数多くありますが、他地域(八ヶ岳周辺でも協議会を設立)でも活動が広がっていますことはうれしいことです。手をこまねいていても仕方ありません。「できることから始めよう!」をキャッチフレーズに今後も少しずつであっても確実に対策を実行していきたいと考えています。


高山植物一口メモ[ホソバヒナウスユキソウ(キク科)]

ホソバヒナウスユキソウ(キク科)
ホソバヒナウスユキソウ(キク科)

  日本には、ウスユキソウの仲間が、5種類あり、本州と四国、九州の低山帯に分布するウスユキソウ、北海道東部と礼文島には、レブンウスユキソウ、早池峰山にはハヤチネウスユキソウ、中央アルプス木曽駒ケ岳にはコマウスユキソウ、本州北部の秋田駒ヶ岳、鳥海山、月山、朝日、飯豊にはヒナウスユキソウ(ミヤマウスユキソウ)が、高山帯に分布する。 いずれも、全草に綿毛があり、新雪をいただいたような、ふわふわの総苞葉は美しく、薄雪草の名の由来になっています。  蛇紋岩の岩場に点々と咲く、ホソバヒナウスユキソウは、至仏山と谷川岳の固有種で、朝露をまとって、朝の光にきらめく時は、宝石よりも美しく、流れる霧にみえかくれする時は、神秘的にさえ思えます。  この美しくも貴重な花が、人の手によって荒らされることなく、美しい自然の中で、いつまでも育まれてと願います。(大内 京子)


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