JAFPANEWS(会報)

JAFPANEWSVol63

高山植物フォトコンテスト最優秀賞「コバイケイソウ」大内京子(千葉県我孫子市)
高山植物フォトコンテスト最優秀賞「コバイケイソウ」大内京子(千葉県我孫子市)

現状でやれることを続けよう

監事 川合 周

平成元年のJAFPA創立以来20年、監事の重責を仰せつかっている川合です。

元来、監事は協会の事業目的、運営状況、経理状況を把握確認して、協会をあるべき方向にリードしなければならない立場にありながら、殆ど課せられた責任を果たしているとは言えない現状に、自己無能の自覚は当然とは言え、心底情けない限りと打ち拉がれて傘寿を迎えます。

だがこの20年に、無能無為ながらも貴重な体験を通して学習しました。その中から、当面の協会の方向を示唆していると思われる事項の一端を申し上げてみます。

協会の課題は山積していますが、中でも最大の問題は会員の減少とそれに伴う収入の激減です。協会存立の危機です。しかし、会員増加は厳しいのが現実です。

生物は危機になると生存必須活動だけで生き抜きます。当協会も同じです。

白簱さんの協力なリーダーシップで協会が設立発会しました。当時の山梨県知事をはじめとする県庁関係職員の皆さんの理解と熱意で瞬く間に協会をを結成した勢いは凄まじく、たちまち会員数も千人を突破しました。献身的な事務局も出来ました。関西をはじめ各地に支部も結成されて、協会は高山植物の保護活動を強力に展開するかに見えましたが、平常活動では会員の皆さんの期待する活動レベルにはなかなか到達しません。社会評価もそうでしょう。

もちろん、全国各位の地道な献身的努力によって、フォーラム、山行、写真コンテストなど各種キャンペーンが実施され、初動目標達成にかなりの手ごたえがありました。この基本とも言える諸活動は例年実施され、年々の成果は評価できます。これが大切です。当面はこの活動の維持しかありません。それはまだ不十分な高山植物保護の社会的認識の向上に活動を絞ることになります。世論喚起です。

協会はその理念を目指す有志の結社です。その存在そのものに周知キャンペーンの力があります。

これには当協会の存続が絶対条件で最優先事項です。協会の必須活動とは何かを徹底して洗い出し、予算も事業も最低必須事項に整理しなければなりません。

各位には是非とも協会の存続にお力を貸して下さい。


平成22年度通常総会が開かれました。

「平成22年度通常総会」が本年6月5日(土)昨年に引き続き東京の「都市センターホテル」で開催されました。

午後1時30分高橋事務局長の開会宣言に続き白簱会長が、会員数に対して総会出席者が少ないのは残念に思う、昨今の高山植物が置かれた環境は特に厳しいので、こんな時こそ大勢の会員の皆様に出席いただき、真剣な討議を重ねて、素晴らしい高山植物を守っていかなければならないことを訴え、会員の皆様に協力を要請しました。

次に来賓としてご参加していただいた、環境省自然保護局野生生物課 浪花伸和氏、環境省関東地方環境事務所野生生物課 田畑桂氏、山梨県森林環境部次長 山本正彦氏がそれぞれの立場から高山植物の重要性を語り、その保護に取組んでいる当協会の活動に期待を寄せている旨が総会開催の祝辞と共に語られました。

総会は、出席者及び委任状出席者の総数が648名となり成立し、出席者の中から日比野静岡支部長が議長に選任され、中村光吉、塩沢久仙両理事が議事録署名人として指名され議事に入りました。

議事

第1号議案(平成21年度事業報告ならびに決算報告の承認に関する件)、第2号議案(平成22年度事業計画案ならびに収支予算案の承認に関する件)および第3号議案(昭和大学北岳診療部の新支部設立の承認に関する件)は原案どおり了承されました。

第4号議案(役員の選任に関する件)では、柳生博、松井政子、矢澤裕子各理事の退任に伴い、柳生真吾、木内祐二の両氏が新任されました。

新任の柳生真吾氏は柳生博氏のご子息で、木内氏は新支部設立に伴い選任されました。

その他については提案がなく全ての議事を終了しました。

総会の審議が終了し、議長退任の後、古沢なつき会員より総会決議が朗読され、平成22年度の総会を契機に心新たに高山植物保護の活動を幅広く展開してゆくことが提案され、全会一致で承認されました。

続いて、恒例になりました高山植物フォトコンテストの入賞者に白簱会長よりそれぞれ楯及び賞金が贈られました。引き続き、遊川知久先生(国立科学博物館研究主幹)が「高山のラン・多様性と保全」というテーマで、ラン科の植物に対する興味深くわかり易い講演が行なれわれ、多数の質問が寄せられるなど、意義深い平成22年度の総会が閉じられました。


通常総会記念講演高山のラン・多様性と保全

国立科学博物館 筑波実験植物園 遊川 知久

日本の高山には30種類のランが

日本には約300種類のランが自生しています。けれどももっぱら高山だけに自生するランは、日本ではタカネサギソウくらいでしょうか。つまり、森林限界からの上の厳密な意味での高山だけに分布する種類はほとんどないということです。私たちが「高山のラン」と言っているものは、亜高山帯、さらには山地帯の上部あたりまで自生するものを含んでいます。ここでも「高山」を幅広に扱うこととして、どのような種類が該当するかまとめるとおおよそ表のようになります。

五十音順に並べていないのは、縁の近い種類どうしをひとまとめにしているからです。空白の行でおおまかなグループ別に分かれています。数え上げると、日本で見られる高山のランは30種類ということになります。山地帯を主な住みかとしていて時に亜高山帯まで進出している種や、品種を取り上げればもう少し増えます。

また実体に問題のある種類がいろいろあります。たとえばホテイアツモリソウ、タカネアオチドリ、ヒメホテイランは多くの図鑑などで認められている種類ですが、区別できないと思うのでリストから外しました。キソチドリの変種レベルの扱いは自信がないので、幅広にキソチドリ1種として捉えています。いっぽう、シロウマチドリの学名にPlatanthera hyperboreaをあてるのがよいのかどうかといった、学名と実体の整合についてもはっきりしない種類がいくつかあります。

以上の見方が正しいかどうか、いささか心もとないところもあります。ついついこれまでの研究者の見解を鵜呑みにしたり、標本や文献の情報に頼りすぎているからです。フィールドで観察すると当てはまらないことがあるかもしれませんので、間違っていると思われることはぜひご指摘いただきたいと思います。

高山のランはどこから来たか

日本の高山のランのルーツはどこでしょうか。現在の分布パターンやDNAの情報を使って系統進化を推定したデータにもとづいて考えると、中国東北部〜極東ロシアから分布が広がった種が主流です。しかしながら、ミスズラン、コハクランのように台湾、さらには中国西部、ヒマラヤ山脈から分布を広げたと考えられる種、タカネトンボのように北アメリカからアリューシャン列島を経て日本にたどり着いたらしい種などもあります。

 

種によって分布の広さもさまざまです。アオチドリ、ヒメミヤマウズラなどは北半球の寒冷地域を覆い尽くすように分布する種で、このパターンを周北極分布と言います。分布域の狭い種類は、往々にして日本の固有種ということになります。日本の高山植物の約3分の1の種類は固有種と言われますが、ラン科の場合、レブンアツモリソウ、オノエラン、ミヤマチドリ、ガッサンチドリの4種類しかなく、固有率の低いのが特徴です。他の植物と比べラン科の固有種の少ない理由として、種子が長距離散布しやすいことがあげられます。ランの種子は子葉や胚乳が発達しないため塵のように軽く、風に乗って長い距離を飛ぶことができます。例えば伊豆諸島のように本土と陸続きになったことのない島に、本土と共通するランの種類がたくさんあることからも分かります。

 

高山は言ってみれば陸地に浮かぶ島のようなもので、温度の低くきびしい環境の場所が島状に点々と離ればなれになっています。ですから、異なった山の個体同士が交雑できる機会が少なくなり、時間が経つとともに別の種を形成したと考えられます。ところがランの種子は数百㎞くらいの長距離散布することが容易なので、山ごとの遺伝的な隔離が起こりにくく、その結果、固有種が生まれにくいのではないかと考えられます。

 

ラン科は植物の科でもっとも多くの種を含みますが、日本ばかりでなく世界の高山であまり多様化していないようにみえます。その理由は科学的に解き明かされていませんが、高山帯では高湿の期間がわずかなため、植物が生育できる時間がたいへん短いことと関係があるのではないでしょうか。ラン科はふつう種子が発芽してから開花するまで数年を必要とすることからも分かるように、生育のたいへん遅い植物です。そのせいで高山の短い植物の生育期間に適応しにくいのではないかと考えています。

保全のカギは生態系に

ラン科は日本の植物の中で絶滅危惧種のもっとも多い科ですが、高山に生える種類の多くも絶滅のおそれがあります。ある種類を自生地で守ろうとするとき、ついその種類を囲い込んで大切にすることだけを重視しがちです。しかしすべての生物は、その種だけで生きていくことはけっしてできません。

での保全が保全の基本であることは、言うまでもありません。しかしそれだけでは生物多様性の保全はできないのです。たとえば植え戻しによる野生復帰を行う場合、施設で苗をきちんと育てることが必要ですし、栽培して調べなければ分からない植物の性質はたくさんあります。また保全には保険という視点も重要です。つまりひとつだけの方法で保全をおこなうと、何かのトラブルですべてを失いかねません。できるかぎりいろいろな方法を使ってひとつずつの種を守っていくことが、最善のリスク回避になります。

 

市民と専門家の恊働で保全を進める

すでに絶滅した種、準絶滅危惧種まで含めると、日本には約2000種類の植物に絶滅のおそれがあります。これらすべてを、職業として植物を扱っている人間だけで守っていくのは、到底できないことです。日本植物園協会では、全国の植物園が協力しつつ、一方でそれぞれの植物園が地域の行政や研究機関、市民と連携しながら保全を進めるため、「植物多様性保全拠点園ネットワーク」をスタートさせました。日本高山植物保護協会の皆様にも今後いろいろな場面でお力添えをいただくことになると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。

記念講演を聞いて

東京都町田市 新井 和也

私は全国各地の高山へ登り、高山植物を撮影している。これまでに3冊の図鑑にまとめた経緯もあり、高山のランに関してはかなりマイナーなものを除いて、すでに見ている種がほとんどだ。しかしハクサンチドリなどメジャーな種を除いて、一度もしくは数回しか見ていないなどなかなか出会いが少ない種も少なくない。高山植物は見て観察するのは山へ登らなければならず労力がかかるが、ラン科となるといつも出会えるとは限らずさらに大変なのだ。だからこの講演を期待して聞いた。

結果、講演で発表があった「日本のラン科植物約300のうち亜高山帯を含め約30種」は全て、南アルプス〜礼文島とこれまで登った山のどこかで見て、撮影している。

話のなかで「日本の高山のランは固有種の割合が少ないなど多様性はそれほど高くない」とあり私もなんとなく気づいていたが、それは

  • 腐植が乏しいため、ランの共生菌となる腐葉土が多くない
  • 生育速度が遅い
  • 種子が長距離散布するため、遺伝的な隔離が起こりにくい

からとのこと。またこれまで日本固有種と思っていたニョホウチドリも朝鮮半島で発見されたとのこと。図鑑の記載にある通り日本固有と思っていた私にとってはいささかがっかりするような気もした。最近、中国や朝鮮半島で調査が進むにつれて、固有種と思われていた種が実は大陸との共通種だったりしているようだ。

またラン科植物はなぜ絶滅しやすいか?での説明では

  • 特殊な性質を持つため環境の変化に弱い
  • 適当な共生菌がいないと発芽できない
  • 特定の花粉媒介者を必要とする場合が多い

とともに、世界的に見ると2万5千種のうち5千程度がすでに絶滅し、1週間に1種の割合でランが絶滅しているとのこと。また日本の野生ランでも約300のうちレッドリストに掲載されている種が200、EX(絶滅種)、NT(準絶滅危惧種)を含めると228にもなるというのは衝撃的な数字だった。

また生息域内保全と生息域外保全についての話は、さすがに「種の保存」を目的にした実験植物園ならではの話が聞けた。

生息域内保全と生息域外保全の両方を組み合わせて保全を図る必要があること。ラン科ではないが私は今年アポイ岳を訪れ、ヒダカソウに関しては地元アポイ岳ファンクラブのメンバーも一生懸命保護活動をしているが、もう生息域外保全を図るべき時期に差し掛かっていてるのではと強く感じている。環境省も種の保存法に指定し「保全対策事業」としてなんとか進めてほしいと感じた。

また話に登場しなかったものの秋田県のチョウセンキバナノアツモリソウに関しては種の保存法に指定され、保護対策事業が行われているようだが、「なぜここまで減少したのか(盗掘)」「なぜ保全する必要があるのか」をその成果や活動内容とともに、広く一般にも共有してほしいと感じた。高山植物は国民の共有財産であり後世に残すべきものであり、保護事業は国家予算を使って進める事業だからだ。


高山植物一口メモ[センリョウ科 センリョウ属]

ホソバヒナウスユキソウ(キク科)
ホソバヒナウスユキソウ(キク科)

 一人静。この美しい名が、私は好きです。 「君が名か 一人静といひにけり」 “ああ おまえが一人静”と声をのんだ 室生犀星の句があります。 山地の林下や日の当たる草地に生える多年草です。 茎の先に4枚の葉が輪生状に対生し、花穂は小さな白花が多く集ってつきます。 又、晩春の山で出会った時、きっと義経と静の姿を思いうかべることだろう。 (文と写真 田中洋子)


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